映画「青春18×2 君へと続く道」Netflix配信記念:映画から見える台湾

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ジミーの挫折

主人公のジミーは、大学途中でゲーム制作会社を起業し、その会社の重役会議で創業者たる自分が見限られる場面で映画はスタートします。

台湾の起業家率

台湾の起業家活動は安定しており、現在、成人の約8.4%が新しいビジネスを始めたり運営したりしている段階にあります。この「初期段階の起業活動率(TEA)」は、他の高所得国と比較しても適度な水準であり、特にテクノロジー分野において活発な起業家精神が見られます。

また、台湾の成人の約15.5%が今後3年以内に自分のビジネスを始めたいと考えており、これは起業意欲が高まっていることを示しています。特に、COVID-19のパンデミックの影響を受けながらも、この意欲は維持されてきました。台湾人の起業家意欲は高く、「当たって砕けろ」的な精神で、とりあえず商売を始めるという思考パターンが幅広く見られます。

さらに、台湾政府はスタートアップファンドや税制優遇措置、外国人タレントの誘致を目的とした政策を通じて、起業を積極的に支援しています。このような政策と、台湾の強力な技術インフラおよび高度なスキルを持つ労働力が相まって、特にテクノロジー分野での活発な起業エコシステムが形成されています。

全体として、台湾の起業家率は世界的に見て特に高いわけではありませんが、強力なインフラと有利な政策によって、革新とビジネス発展が促進されています。

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「休息是為了走更長遠的路」

ジミーは失意の中、台北から台南の実家へ帰ってきます。ジミーを慰める父親は、これまで自分の夢の実現に突っ走ってきたジミーに、「休息是為了走更長遠的路」という言葉を投げかけます。「休むとはさらに長い旅を歩くためのものなり」

ジミーは1990年代の世代であり、まさに台湾の経済成長と重なります。これまでの30年間、台湾もまたジミーのように突っ走り続けてきました。しかし、まさにこれからの長旅のため、台湾社会もその速足を少し緩め、確かな足取りにする必要に迫られていることも確かです。

台湾の経済成長期

台湾は1970年代以降、急速な経済成長を遂げてきました。特に製造業や電子工業が主力産業となり、「アジアの四小龍」の一角として知られています。経済のグローバル化と技術革新が進む中で、台湾の企業は高度な技術と労働力を活かし、世界市場に製品を輸出することで成長を続けました。

近年では、IT産業や半導体産業が成長の柱となり、特に半導体分野では世界市場で重要な位置を占めています。TSMC(台湾積体電路製造)はその代表的な企業であり、世界中の多くのハイテク企業に半導体を供給しています。

若者を取り巻く就職や経済状況の変化

台湾の経済成長が続く一方で、若者を取り巻く就職や経済状況にはいくつかの課題が浮上しています。

  1. 賃金停滞と高い生活費: 台湾の若者は、賃金の伸び悩みと生活費の高騰に直面しています。特に台北などの都市部では、住宅価格や生活費が高騰しており、若者が経済的に自立するのが難しい状況が続いています。このため、多くの若者は親元に住み続けることを余儀なくされています。
  2. 非正規雇用の増加: 経済構造の変化により、正規雇用の機会が減少し、非正規雇用や契約社員として働く若者が増えています。これにより、安定した収入や福利厚生を得ることが難しくなり、将来の生活設計に不安を抱く若者が増えています。
  3. 競争の激化とスキル要求の高度化: グローバル化と技術革新に伴い、企業はより高度なスキルや経験を求めるようになっています。このため、大学卒業後もさらなるスキルアップや資格取得が必要となるケースが増えており、若者にとって就職はますます厳しいものとなっています。
  4. 起業やスタートアップの増加: このような状況に対抗するため、多くの若者が起業やスタートアップに挑戦しています。台湾政府もスタートアップ支援政策を推進しており、若者の新しいビジネスアイデアが育つ土壌が整いつつあります。
  5. 成功重視から充実した生活スタイルを求める傾向: 台湾の経済成長の陰で、成功が強く重視される社会風潮が形成されました。多くの若者が厳しい競争社会の中で、学業や仕事において成果を上げることに集中するようになりました。しかし、近年、この成功重視の風潮に対する反動として、若者の間で充実した生活スタイルを求める傾向が強まっています。この傾向は、単に仕事や収入のために生きるのではなく、ワークライフバランスの向上や個人の幸福感を重視する姿勢に現れています。旅行や趣味、家族や友人との時間を大切にするなど、人生の質を高める活動に関心が高まっているのです。このため、若者の間では「小確幸」(少しの確かな幸せ)を求めるライフスタイルが広まりつつあります。

アミとの出会い

実家で自分の部屋に戻ったジミーは、一枚のハガキを見つけます。それはジミーが高校生活最後の夏休みに出会った日本人、アミがジミーに送ったハガキでした。そこから、ジミーがもう一度アミとの出会いを再構成する物語が始まります。

1990年代の日本

1990年代のバブル崩壊は、日本社会に深刻な経済的打撃を与え、それに伴い若者の価値観にも大きな影響を与えました。

  1. 消費文化からの転換
    バブル期には、消費が美徳とされ、贅沢品やブランド品の購入が社会的ステータスの象徴とされていました。しかし、バブル崩壊後、経済の低迷とともに、若者の間で「無駄な消費」への批判が高まりました。この結果、質素な生活を好み、必要最低限のものしか買わない「シンプルライフ」や「ミニマリズム」の価値観が浸透しました。
  2. 終身雇用への不信感とキャリアの多様化
    バブル崩壊後、多くの企業がリストラや倒産に追い込まれ、日本の「終身雇用」システムへの信頼が揺らぎました。これにより、若者たちは一つの企業に長く留まることへの不安を感じ、自らのキャリアを多様化させる必要性を認識するようになりました。フリーランスや派遣社員、さらには起業といった多様な働き方が選択されるようになり、個々のキャリアを自分で切り開くという意識が高まりました。
  3. 結婚や家庭に対する価値観の変化
    バブル崩壊後の経済的不安定さから、結婚や家庭を持つことへの価値観にも変化が生じました。安定した収入が得られにくい状況や、将来への不安から、若者の間で結婚や子育てを先延ばしにする傾向が強まりました。これにより、晩婚化や非婚化が進み、結婚が必ずしも人生の目標ではないという考え方が広まりました。
  4. 自己実現と内面的な充実への志向
    経済成長が鈍化する中で、物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさや自己実現を重視する価値観が若者の間で台頭しました。趣味や自己啓発、ボランティア活動など、個人の内面的な充実を追求する活動に時間を費やす人が増えました。また、社会的に認められることよりも、自分自身が納得できる生き方を求める傾向が強くなりました。
  5. 社会への不信感と政治への無関心
    バブル崩壊後の経済政策や政治の混迷に対して、若者の間で社会や政治への不信感が広がりました。この結果、政治への関心が低下し、選挙への参加率も減少しました。特に、政治や政府に対する期待感が低くなり、自分たちで社会を変えることへの希望が薄れた世代も見られます。

アミは先天性心疾患を持つ年上の女の子として描かれています。それはこれからの旅路にエネルギッシュに立ち向かえるジミーとは対照的ですが、アミは決して弱々しい子ではありません。自分は、まったく環境の違う国でも認めてもらえるのか。それを確かめてみるために世界を回る旅に出たアミ。その最初で最後の場所が台湾でした。その姿は、バブル崩壊後の日本と重なります。マネーパワーを失った日本は、日本人としての真のアイデンティティは何なのかを、確かめる旅路に向かわなくてはいけなくなりました。それは、ゆくゆくは台湾もたどらなければならない旅路なのです。

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